
今作は、ちょうどケアマネという仕事を始めた頃に出会った作品でした。生きて帰ることのない攻撃、特攻……知っていたはずなのに、今作は理解ではなく強烈な違和感を私に残しました。この時代に今一度、この印象深い作品と向き合いたいと思います。
漫画【特攻の島】あらすじ(物語の概要)
九州の炭鉱の町に貧しい家庭で生まれ育った渡辺裕三、貧しさ故の辛い暮らしから抜け出すため、予科練に志願。渡辺の配属先は特殊兵器を扱う部隊……特殊兵器、それは人間魚雷・回天であった。回天、それは一度出撃したら生還は期せない、特攻兵器。
山口県・大津島にある回天部隊の秘密基地、そこで渡辺は回天の創案者、仁科中尉や同期の関口と辛い訓練の日々を過ごす。刻一刻と悪化していく戦況、やがて渡辺と関口は金剛隊の回天搭乗員に選抜される。土を踏むのはこれが最後、という不退転の決意をもって伊53号に乗り込む……。

1. 特攻の島をケアマネ視点で見る:『平穏』のための犠牲、その残酷さ
特攻……現代では到底想像できないものの、この国に確実にあった現実……。今作は佐藤秀峰さんという作者さん独特の観点・切り口で特攻という重いテーマが全9巻というコンパクトなサイズで描かれています。
特攻という賛否両論ある出来事、そして私達が普段関わっている介護……関連して考えることすら憚られることかもしれませんが、今作を読んでいて少し感じることがありました。
私達は時々、利用者さんの平穏な生活のために多大な犠牲を払っておられるご家族に出会います。ご自身のプライベート、キャリア、もっと細かく言えば睡眠時間、ほっとできる自由時間、そういったものの多くを介護に充てている方々、です。
それをご家族の方々が心から望んでおられるのであればそれはそれで一つの人生の選択、でしょう。ただ、そうでない場合、利用者さんの平穏を維持するため、昨日と同じ明日を続けるため、御家族の犠牲が増大しているような……ずるずると介護の手間が増えていったようなケースでは、明確な目的意識がなく、御家族の犠牲が増大しているケースもあるように思います。
特攻作戦は一撃講和論(決定的な一撃を与えることで、講話に際しての有利な条件を引き出そうとする考え方)に基づいて考案された、とされています。当初は決定的な一撃、という明確な目的があったのでしょうが、期待するほどの成果がないままに、やめるにやめられず、ファイティングポーズをとるために特攻を続けていた……のではないでしょうか。
勝つためではなく続けるために犠牲になった若者達……胸が締め付けられます。
この辺り、昨今話題のヤングケアラーとも重なって見えてきますが、それはまた別の機会に……。これ、ほんとおっきなテーマです。
ともあれ、この目的なき特攻と介護の現場と重ねて考えると、課題の解決を見失い、御本人の平穏を継続するための犠牲となっておられる御家族、という存在が垣間見えます。
こういう状況に対峙した時こそ、支援者としての専門性をもってその犠牲を少なくしていく、ないし有意義にしていく、ということが私達に望まれることなのではないかと考えました。現状維持のための犠牲ではなく、解決のための一時的・限定的な協力……、御家族の負担をそのように転換することが、結果として御本人のためになるのではないか、と思います。【特攻の島 ケアマネ】

介護と特攻……全然関係なさそうなテーマですが、ご家族の負担感、という視点で見れば学べることもきっとあると思います。
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2. 特攻の島をケアマネ視点で視る:肌を焼くような極限の選択、その熱量
特攻を描いている今作、当然、目を背けたくなるようなシーンが多々描かれています。しかも作者の佐藤さんらしく、精神的に来る、じりじりとした、例えるなら縫い針を目に向かってゆっくり近付けているような、焼けた火箸をじわじわと近付けられているような……そんな圧迫感、緊張感。うっ 、と本を閉じてしまいたくなるような、そんなシーンの連続です。
例えば序盤、渡辺が乗り込んだ潜水艦が敵の駆逐艦に捕捉される場面があります。駆逐艦の追跡からは逃れられない、このままでは潜水艦そのものが沈んでしまう……そんな究極に追い込まれた時、渡辺とその戦友関口が下す決断……というシーン。
ネタバレになるので書きませんが、文字通り、まさしく文字通り、生か死か、その決断を迫られている登場人物達、その潜水艦の中の空気感は、まるで首を締められているかのような観賞感をもたらしてくれます。正直、きっっつい。
しかし、それが今作の持つすごさであり、読者が求める物である、と思います。だからこそ出版され、販売されているはず。
ドラマ、小説、漫画……こういったメディアはストーリーを楽しむもの、であることには違いないのですが、それ以外の多くの魅力を持ち得ます。そうした魅力がその作品でしか味わえない物、であればあるほどその作品の独自性が増し、その作品でしか満足できない人……虜を生むのでしょう。
今作は、いうまでもなく人を選ぶ作品。嫌いな人は嫌い、わずか全9巻ですが到底完走することはできないでしょう。しかし、魅入られると生涯を共にする作品になるはず。【特攻の島 ケアマネ】

今作は間違いなく、そういったポテンシャルを秘めた作品です。

3. 【まとめ】『特攻』を過去の悲劇にしない……真っ白な心で、今を問い直す
今作はとても奥深い作品です。それは生きるということ、死ぬということ、人間であれば誰しもが等しく抱えているテーマを率直に、そのままに、むき出しで提示しているから。
人は、いや生き物は誰しもが誰かの・何かの犠牲の中で生活している、のでしょう。社会というシステムでそれをうまくカモフラージュしているだけで、どんな平穏も少なからず犠牲を内包しているのだとも思います。
対人援助を仕事としている私達は、システムのすき間から、その中身を見てしまうことがあります。そういった時、誰かの生が誰かの生を奪っている時……どうすればいいか、答えなんてありません。まず最初にできることは、考えること。
そして今作はそんな考えることを、この作品にしかない魅力で手伝ってくれます。
特攻なんて昔の悲劇、だとは思わないでください。生と死、それをストレートに問いかけるテーマです。それを佐藤さんという才能あふれる作家さんが描いた貴重な今作、ぜひ、真っ白な心で手に取って欲しいです。【特攻の島 ケアマネ】

介護や医療、対人援助の現場で生と死に関わる方、いや、この平穏な社会(もちろん色々ありますが……)で生きる全ての人に、学びのチャンスをくれる作品だと思います。
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