
「ま、よくある余命物かぁ」、そんな気持ちで流し見し始めた今作。……正直、大きな期待感はありませんでした。
それが序盤、もっと言えば一話で一気に引き込まれてしまいました。
派手じゃない、大きなどんでん返しがあるわけでもない、でも深く深く心に残る今作は、今や私の宝物のひとつです。
ドラマ【春になったら】あらすじ(物語の概要)
椎名雅彦(木梨憲武)は凄腕の実演販売士。若くして妻を亡くした雅彦は男手一つで瞳(奈緒)を育て上げた。瞳は助産師として経験を積みつつ、売れないお笑い芸人、川上一馬との結婚を考えていた。
冬のある夜、雅彦は瞳に告げる。「三か月後に死んじゃいます」と。そして瞳も告げる。「三か月後に結婚します」、と。
ぶつかり合う二人、しかし雅彦は死ぬまでにやりたいことリストを、瞳は結婚までにやりたいことリストを作り、それを実行しつつ残された時間を分かち合う。
これは、春までの三か月に起きる人生の物語。
(中略:Instagramのコード本体)
1. 春になったらをケアマネ視点で視る:神様がくれた『死に向き合う』ための時間
癌……それは日本人の死因第一位の病気です。四人に一人が癌で亡くなっている現実……これはケアマネとして働いている私も実感する数字。
高齢者の介護分野で働いている以上、この病は必ず向き合うことになる課題なのです。
もちろん、早期発見により治療に取組み、克服される方もいらっしゃいます。一方、終末期と言われる状況で癌と向き合うご本人、ご家族もおられます。
癌末期は、ある日突然、昨日までできていたことができなくなる、という瞬間が訪れます。その急な状態変化がご本人を、ご家族を戸惑わせる大きな要因です。
ただ癌、特に終末期の癌はおおよその流れが予期できる病でもあります。もっと言えば、予後の予測がある程度可能な病なのです。
予後……命がどれだけ残されているのか……それは残酷なようでもありますが、一方でしっかり死に向き合える時間、とも言えます。
交通事故、心疾患などの急死、ではあり得ない、語弊を恐れずいえば神様がくれたともいえる貴重な時間、ではないでしょうか。辛いことではありますが、それは二度とない大切な瞬間なのです。
今作のテーマもまさにいかに死と向き合うか、ということ。雅彦は死ぬまでにやりたいことリストを作りそれを実行しようとするわけですが、ケアマネとして癌の末期の方とかかわる時も、今日の、明日の支援・ケアのことは当然、人生の終盤をどう過ごしてもらうか、もらえるのか、という視点も踏まえて関わっていくべきなんだと思います。
そう思えば、高齢者福祉という仕事は、誰かの一生の最終盤に関われる貴重な仕事なんだと、気づかせてくれた今作でした。

ターミナル期の支援は、どうしてもばたばたしがち。目の前の対応に追われ、心の余白がなくなってしまうこともあります。だからこそ本作は、利用者さんやご家族の視点で死と向き合う時間を見つめ直させてくれました。ターミナルケアに関わる全ての人にとって、多くの気づきと学びを与えてくれる作品だと思います。
2. 春になったらをケアマネが観る:悲しいのに笑える、相反する感情が届く仕組み
今作の主人公・雅彦は余命三か月。自らの死に向かい合うという内容は、素直に描けば重く暗い雰囲気になりがち。
物語を作るという観点からすれば、テーマに沿った雰囲気で描くことはごく自然な選択です。重たいものを重たく、陽気なものは陽気に……そういった、いわゆる素直な作品には1+1を20にするような爆発力を持ち得る作品もたくさんあります。
ただ、今作のように重たい話を明るく、という意図的なねじれを内包する作品って、そのねじれ故にぐぐぐっと、心に迫るものがあると思います。
今作でそれを最も強く感じたのは、最終回。詳しいことはネタバレなので割愛しますが、うれしいのに悲しい、悲しいのに笑える、という相反する感情に同時に襲われるという経験が待っています。
また、もう一人の主人公・瞳の職業が助産師さんというところも秀逸。重たいテーマの中で出産という喜びが挟み込まれるのも、今作のねじれをうまく、わざとらしさなく維持している仕組みなのだと思いました。
派手さはないけど、よくできた構成です。
シンプルで奥深い。
どちらも、見るたびに違う顔を見せてくれます。
3.【まとめ】:人生を変えられる心の在り方
今作はどんな人も決して逃れることのできない死という普遍のテーマに取り組みつつも、生きる楽しさ、素晴らしさ、おかしさ、そして愛おしさも感じさせてくれる、とてもハートフルな作品です。
人生はどう生きるかによってその色を変える、私は日々、様々な方と関わってそう学びました。どんな環境であれ、状況であれ、その心持ち一つで見る景色は変わり、空気も、温度も変わっていく……。これ、本当なのです。慰めではありません。私は、辛く困難な環境でも素敵な笑顔を見せてくださる方とたくさん出会ってきました。
雅彦が真正面から死を受け取り、悲しみ、悲嘆する……そういう描き方だってあり得るでしょう。しかし死ぬまでにやりたいことリストというツールでその残された時間を前向きな、活動的な、ポジティブなものに変換することで雅彦は残り少ない時間を心豊かなものにしました。
この姿勢は、どんな人にとっても学びの多いものであると私は思います。

死を描いた物語、だからこそ、これからを生きる力を託される。……そんな不思議な作品です。




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