
何かホラーを見たい……と思い、レンタル屋さんで見つけたのが今作。
初見では一気に虜になったけれど、ケアマネとして改めて向き合った時、ある経験が自然に思い出されました。それは、『どちらも正しい、でもどちらにも味方できない』という、あの板挟みの感覚です。
映画『モールス』の概要
寒さと雪に覆われた田舎の町、学校でのいじめに悩む少年・オーウェンは、熱心なキリスト教徒である母と暮らしていたが、孤独に心を沈める日々を送っていた。
ある日、隣家に引っ越して来た少女・アビーと知り合う。オーウェンは、自分と同じように孤独を抱えるアビーのミステリアスな雰囲気と可憐さにどうしようもなく惹かれていく。
孤独な心が惹かれ合うように距離を縮める二人、やがて壁越しにモールス信号で合図を送りあうようになる。やがてアビーの正体を知ったオーウェン、そして平穏で退屈だったはずの町に、似つかわしくない残酷な連続猟奇殺人事件が起き始めて……。
1. モールスをケアマネ視点で視る:ケアマネが問う、生存のための代償、ぶつかり合う『意思』と『希望』
この作品の最も大きな特徴は、吸血鬼をダークヒーローではなく、生きづらい命として描いているという点。この設定が吸血鬼という存在に濃厚な、香り立ちむせかえるようなリアリティを与えています。
見た目が少女である吸血鬼であるアビーは、生きるために人間の新鮮な血が、そして目立つことなく社会の中で生きていくための支援者が必要。つまりそれは誰かの支援の下で他者の命を糧にし続けなければならないということ。
これはアビーの生存権と、社会的な規範との間で生じる、決定的で解消不能な断絶です。そして、いじめられっ子の少年・オーウェンは、そのピュアな恋心のままにアビーの存在、その存続に関与してしまいます。つまりそれは社会との断絶に至る破滅の道……。
彼の純粋な思いは美しいものの、それは他者の命を奪う行為への加担。オーウェンとアビーを繋ぐのは恋心だけではありません。二人の関係は、究極の状況下における共依存、そしてその代償を視聴者に突きつけます。
介護の現場で、時に決定的に対立する本人の意思と家族の希望に出くわすことがあります。例えば、御本人は家にいたい、しかし家族は施設に入ってほしい……こういう対立は決して珍しいことではありません。
オーウェンは物語を通して一つの大きな決断に至りますが、こういった相対している二つのベクトルに出くわした時、支援者としてどうするべきか……それは答えのないことでありながら、現実としては答えに至らねばならない大変困難な状況です。
そんな中でご本人、家族の方とともに考えること、それこそが介護支援専門員として求められるあり方ではないか、と考えさせられました。それは時に、答えを出すことよりも大切ではないか、と感じることもあります。
どっちも正しい、でもどっちにも味方できない……そんな板挟みの時、今作を見てみてもいいかも。一つの決断をしたオーウェンに、何かを感じることができるかもしれません。

どっちも正しい、だから苦しい……。そんな板挟みに、そっと寄り添ってくれる一作です。一度、この孤独に浸ってみませんか?
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2.モールスをケアマネ視点で観る:『イノセントホラー』の秀逸な構造・不器用さが生む純粋な悲劇性
この映画の秀逸な点は、イノセントホラーというキャッチコピー。このキャッチコピー、めちゃめちゃ秀逸。二人の不器用なやり取り、距離を縮めようとする試みと痛み、吸血鬼という存在……そういったこの映画が含んでいる輝きを見事に言い表しています。
もしアビーが強大なダークヒーローであれば、物語は平凡なアクションで終わっていたでしょう。しかし、彼女が生きづらい命であるがため、オーウェンとの関係が純粋であるが故の切なさが滲み、アビーの生存といういわば当然の権利にあまりに冷徹な現実が立ちはだかる、という構造を持つに至ります。
この純粋さと冷酷さのねじれこそが、この物語をただの吸血鬼物から引き上げ、イノセントなホラーへと昇華させる構造的な力だと思います。
物語の骨格・構造そのものが視聴者の心を捉える、という意味では稀有な作品かもしれません。
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3.【まとめ】純粋な愛は、道徳的な闇を越えて存在しえるのか?
今作は単なる吸血鬼映画ではなく、生きづらい命が、生存の権利と道徳的な境界線のはざまで翻弄される姿を描いた、ひどく残酷で、だからこそ美しい作品です。少年と少女の間に生まれた感情が命と倫理という問題に直面した時、それは純粋な愛として成立しえるのか? 人のあるべき姿・モラルを超えてもなお存在しえるのか? その答えはきっと見た人に委ねられるでしょう。

なんかちょっと変わったホラーが見たい時、あえてもやもやしたい気持ちの時、ぜひおすすめの映画です!
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