
「ケアマネさん、私、字が読めないし書けないの……」
その告白を聞き流していたことに気が付いた時、ドキッとしました。私はなんて鈍感だったんだろうって……。
読めていないのに頷くしかなかったAさんの事例を通じ、『想像しにくい困難』について考察します。
【ドラマ】愛の、がっこう。物語の概要(あらすじ)
高校教師・小川愛実(35)は、古い価値観に縛られた父の期待通りに生きてきた。過去には恋人に振られたことを機にストーカーと化し、自殺未遂に至った過去も……。現在の婚約者との関係にも満たされない何かを感じていた。
そんな中、愛実が夜の街で出会ったのは、人気ホストのカヲル(23 / 本名:鷹森大雅)。彼は人懐っこい笑顔の裏で、発達性ディスレクシア(学習障害)という壁を抱えている。文字が読めないという『当たり前の欠落』は、彼の自尊心を幾度も傷つけてきた、がカヲルは必死に生きている。
社会の規範を背負い、安定した世界に生きる愛実と、情報の断絶という壁を抱え、夜の街で輝くカヲル。対極にある二人はとあることをきっかけに出会い、愛実がカヲルの先生になる、という関係を紡ぎ始める……。
1. 愛の、がっこう。をケアマネ視点で視る:生きづらさの根源
今作は、安定を求める教師と、発達障害による文盲という壁を抱えるホストの物語。
一見するとお堅い教師とホストの恋愛、に見えますが、注目すべきはホストのカヲルが抱える読み書きができないという問題。
それは当たり前のスキルの欠落がもたらす生きづらさを描いているのです。
普通に生きている人は、文盲の方がどんな暮らしをされているのか、想像しにくいと思います。
例を挙げてみましょう。
Aさんの場合……。
・田舎で生まれ育ったAさん。生活のためあまり学校に行かせてもらえず、勉強する機会を失ってしまった。
・成人し、水商売の世界に入ったAさん。持ち前の愛嬌で十分な収入を得ることができた。
・しかしそのことが、学び直しの機会を遠のけてしまうことに……。
・加齢とともに足腰が弱ってしまったAさんは友人に付き添われ、役所で要介護申請を行う。
・要支援1、という結果だったものの郵送で通知されたその内容が理解できなかった。
・何とか包括がAさんの存在を把握、プランを作成し署名を求めても、応じられなかった。
・Aさんは言いづらそうに話す。「ケアマネさん、私、字が読めないし書けないの……」
・Aさんは色々と話してくれた。サインを求められることの恐怖、読めていないのに「わかりました」と言ってしまうこと、説明してほしいのにお願いできないこと……。
実際、私も文盲の方を担当したことがあります。前述の例は、私が実際に垣間見たこと。
カヲルの抱える文盲という障害は、単に文字が読めない・書けないという一時的な障害ではないのです。
それは、突き詰めて言えば、生きにくさの根源。
カヲルが夜の世界に身を投じたのも、きっと、その生きづらさのせい。
文盲に対する支援……ううん、理解があば、もっと一般的なら、カヲルの人生はもっと違っていたでしょう。
きっと、色んな生きづらさを抱えたカヲルのような人が、私達の側にいるんだと思います。
カヲルの生きづらさは、フィクションではないのです。

・生きにくさには理由がある。
・全ての困難が可視化されているわけではない。
・まずは知ることが大切。
隔たりを挟んで向き合う二人を今すぐその目で。
2.愛の、がっこう。をケアマネ視点で観る:俳優が与える自然なリアリティ
二人は教師とホスト。本来であれば交わることのない、昼と夜の世界の住人。
二人の関係は周囲からの軋轢に晒され続けます。本来、社会の規範の象徴である教師・愛実と年下のホスト・カヲルは似つかわしくないのです。
しかし、愛実役の木村文乃さんが持つ可憐さと美しさがカヲルとの関係に強烈なリアリティを与えています。
このドラマ、視聴者が「なんでいい年下した教師がとんでもないリスクを負ってまでホストを愛するのか? おかしいでしょ」と思った瞬間、リアリティを喪失してしまいます。
ぱっと見た感じは若々しくて、でもちゃんと大人、という愛実像を木村さんが体現しているからこそ、前述の致命的な違和感を抑えられているように感じました。
カヲル役のラウールさんの演技も素晴らしい! 不器用だけど一生懸命、という最も視聴者受けしそうなキャラクター像にぴったりな方。
危ういバランスの設定をちゃんと地に足つけさせているのは、俳優さんの個性なんだと思いました。
今作は隔たりを描いた作品。聴覚・言葉の隔たり、知識の隔たり……共通するテーマを描いた作品もどうぞ。
3.【まとめ】当たり前の欠落と、純粋な愛
今作は、不合理な愛という一般的な恋愛もののテーマに加え、生きづらさを描き、伝えられる可能性を秘めた作品。
文字が読めない、という当たり前の欠落の周辺で関係を築いていくカヲルと愛実。
二人の一進一退の関係にはやきもきさせられます。
そして最終回。大きな山場があるのですが、それまでにも所々、ぐっと心に刺さる、食い込んでくる、引き裂かれるようなシーンがあります。
前半、少し我慢するようなところもありますが、中盤にかけて盛り上がってきます。
そして私おすすめの最終回……。ぜひ、その目で確かめてみてください。
愛の、がっこう。こんな人におすすめ!
・当たり前の喪失、という状況に関心がある方。
・出演されている俳優さんが好きな方。
・一進一退の関係を見守りたい方。

ホストや夜の街といった題材にアレルギーがなければ、ぜひ見てみて欲しい作品。意外なほど、泣けます。絶対おすすめ!
愛の、がっこう。を今すぐ見たい方へ。
愛の、がっこう。をお手元に置いておきたい方へ。
今の職場に隔たりを感じておられる方へ。

夕璃:介護支援専門員(歴10年以上)
居宅介護支援事業所の管理者として勤務。社会福祉士、精神保健福祉士の資格保有。
小説家になりたくて、某新人賞で二次選考突破。今も挑戦中。
ケアマネとして、福祉、ケア、支援etc…といった視点でドラマ・映画等をレビューしています。
▼ 詳しいプロフィールは以下。▼




コメント