
『その支援、誰かの生きがいを壊していませんか?』
良かれと思って提供する介護サービスが、利用者さんの誇りを傷つけてしまうかもしれない……。
ヘルパーを頑なに拒み続けたある高齢女性の事例を踏まえ、自分らしく生きるということについて考察します。
【映画】This is I 物語の概要(あらすじ)
アイドルになりたい、と夢見るケンジ。しかし成長とともに男の子らしい体に成長し、そのことで周囲から冷たい目で見られてしまう。時には酷いいじめにあってしまうことも……。
そんなケンジが出会ったのはショーパブ。眩いライト、綺麗な服、あでやかなダンス……そんな中でケンジは夢に向かっての一歩を踏み出す。
女性に憧れ続けるケンジはやがて、とある医師に出会う。彼は患者を救うため、タブーとされる手術をしていた……。
自分らしさのために生きる二人の人生が交わった時、その後に起きることとは……。
1.This is Iをケアマネ視点で視る:自分らしさ、を守ること
今も現役で活躍されている、はるな愛さんの自伝的ストーリー。
私の印象では、はるな愛さんは松浦亜弥さんの個性的なモノマネをされている元気で明るい方、というイメージ。
しかし今作で語られるのはあのスポットライトを浴びるに至るまでのはるなさんの人生、その苦悩。
人がその人らしく生きる、それは当たり前のことですし、そうする権利は誰にだってあるはず。
しかし、物語の大半で描かれるのは、自分らしくありたいはるなさんが噛みしめる苦悩の数々……。
自分らしくある、あり続ける、当然のことのようで、当然でなくなってしまう事だってあるのです。
ちょっと事例で考えてみましょう。
Aさんがヘルパーを拒否する理由。
・Aさんは公務員のご主人を持ち、二人の息子を立派な社会人に育て上げた。
・数年前、ご主人と死別。以降も家を守ってきた。
・庭先の掃除をしている最中に転倒、たまたまご近所の方が発見。
・搬送の結果、上腕骨の近位端骨折と足首の捻挫が判明。また、下肢筋力の低下を指摘される
・駆けつけた息子達の勧めで要介護申請。
・運動目的型デイ、家事の共同実践のヘルパーさんの利用を開始。
・デイには進んでいくAさんだったが、ヘルパーさんの利用にはとても消極的。理由をつけてキャンセルしてしまう。
デイは利用するのにヘルパーさんはお休みしがち……こういう状態になると、ケアマネのセンサーがピン、と働きます。
きっと、何か理由があるはず。
・モニタリングの際、ケアマネはAさんの暮らしぶり、自宅の状況、そして生活暦に注目。
・「最近くたびれちゃって」「でもなかなか片付かなくていらいらしちゃう」とAさん。
・「ヘルパーさんはいい人なんだけど……」とも。
・十分片付いている室内、Aさんの生真面目な性格、そして専業主婦として家を守ってきたという生活暦……。
・ケアマネは、ヘルパーさんへのお願いを家事の共同実践からお買い物の代行に変更することを提案。
ケアマネは恐らく、「Aさんは自宅のことを他人に任せたくないのだ」と感じたのでしょう。
Aさんには立派な夫と暮らし息子達を育んだこの家を守ってきたのは自分だ、という自負があったのでしょう。
ヘルパーさんに家の維持・管理を手伝ってもらう、ということはAさんにとってはアイデンティティの危機。
だから、負担感のある買い物をヘルパーさんに代行してもらうことを提案した、ということ。
はるなさんが自分らしさの実現に苦悩したように、ご高齢の方々も自分らしさを守るために考え、悩み、苦しんでおられるのです。
自分らしく生きることって、案外難しいのかもしれません。

・人は、自分らしく生きていたい。
・自分らしさは、守りたい。
・大切にしたいもの、その気持ちは尊重しよう。
2.This is Iをケアマネが観る:不可思議な感情、その快感。
今作、狙って感動をとりに行っているところはいくつかあります。もちろん、そこもちゃんと感動するいいシーンなのですが、私の印象に残ったのは、ラストシーン。
それ自体、特別な演出があるわけではありません。意外な終わり方でも、突飛な仕掛けがあるわけでもない。
でも、自分でも訳が分からないまま涙が出ていました……。こういう、自分でも分からない自分の感情に出会わせてくれる作品って、すごく心に残ります。
で、あるSNSで某タレントさんが(別のシーンですが)「アイちゃん、よかったね! って思うと涙が出てきた」と話されているのを見て、納得。
「あぁ、私は色んな努力が報われたはるなさんに感動していたんだ……」と。
嬉しかった反面、少しがっかりしていた私。そして、そのがっかりにまた違和感を抱く私……。
普通、人というのは疑問が解消することに快感を覚える生き物だと思います。だからミステリー物はずっと人気があるし、考察・ネタバレ系の記事も求められているのだとも思います。
そしてケアマネとしての私も、原因・要因を探しがち。「○○だから××という問題が起きているんだ!」というのがケアの最短解だから。
でも、分からないことを分からないままでいる、ということにもまた別の快感があるのではないか……と思いました。
分からない、だからこそ気になる、心に残り続ける……そういうのも、作品の強みなのかもしれません。
割り切れない感情……それぞれの価値観、分かっても惹かれてしまう……人生の選択・迷いを描いた作品です。
3.【まとめ】自分が自分でいる、という奇跡
はるなさんは自身の肉体と精神の性のずれ、によって多くの困難を抱えてきました。
でも、今のはるなさん、すごく輝いていますよね。
その才能、努力、そういったものが彼女を今の場所にまで至らせたとは思うのですが、はるなさんは自分らしさを勝ち取った、ともいえると思います。
自分が自分らしくいることを勝ち取る……美談のようでもありますが、ちょっと引っかかる気もします。
自分が自分でいることにコストが必要なものなの?
自分が自分でいる、ただいる、それは当然の権利でしょう。
ただ、なりたい・ありたい自分になることにコストがかかるのもまた当然、かも。
そう思うと、暮らしたいように暮らす、という当たり前を支える福祉という仕事も、それに携わっている私も、ちゃんと社会にとって必要な存在なんだな、と勇気づけられた気がします。
This is I、こんな人におすすめ!
・人生を切り開いていく主人公が好きな方。
・自分らしさについて考えてみたい方。
・はるな愛さんに興味がある方。

派手さはない映画ですが、ぴったりくる人には人生を励ましてもらえる映画。
是非一度見てみて欲しい一本です!
映画の原作を読んでみたい方へ
自分らしく働ける職場に巡り合いたい方へ

夕璃:介護支援専門員(歴10年以上)
居宅介護支援事業所の管理者として勤務。社会福祉士、精神保健福祉士の資格保有。
小説家になりたくて、某新人賞で二次選考突破。今も挑戦中。
ケアマネとして、福祉、ケア、支援etc…といった視点でドラマ・映画等をレビューしています。
▼ 詳しいプロフィールは以下。▼





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