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最初に父が殺された×因果:悲劇には理由がある

夕璃
夕璃

『惨劇は、降ってくるものではない』
制作国の一つがカンボジアという、日本ではとっても珍しい作品。そして、クメール・ルージュという、普通に生活していたら聞くことのない団体を描いたともいえる作品。
悲惨な環境にいる高齢者の事例を通じ、悲劇は対象を、世代を超えて継承される因果について検討します。

最初に父が殺された 物語の概要(あらすじ)

1975年、ルオンは5歳の少女。父親は軍人(憲兵将校)であり、首都・プノンペンのマンションで家族とともに裕福な暮らしを送っていた。

ある時、街に武装した集団がやってきた。赤と白のチェックのスカーフを巻いた、子供を含む若者達か銃を持ち、街の住民に告げる。

「3日間、街を離れなさい」「米軍機がくるぞ」「3日で戻れる」

言われるがまま簡単な手荷物をもってトラックに乗るルオンは、街の住民……僧侶、入院している患者まで……が根こそぎ街を退避させられているのを、そして武装解除させられている軍隊を目撃する。

途中からは徒歩での移動となり、大半の私物は没収された先、ルオン一家が辿り着いたのは都会であったプノンペンとは程遠い、田舎。

それから始まるのは、赤と白のチェックのスカーフを巻き銃を持つ若き兵士たち……クメール・ルージュ……の指示のままにひたすら農業に従事する、そしてその命令に従わざるを得ない地獄の日々だった……。

最初に父が殺された をケアマネ視点で視る:歪みは広がる

某サブスク限定での公開であり、様々な賞を受賞、またはノミネートされてはいますが、日本ではあまり知られた作品ではないと思います。

また1975年のカンボジア、そしてクメール・ルージュという存在もまた、現代の日本で暮らす私達にはいくらか遠い存在です。
ただ、カンボジアで人類史上類を見ない大量虐殺があった、という出来事をどこかで聞いたことがある方は少なからずいのでは。

東洋の真珠と呼ばれた美しい街・プノンペンをもつカンボジアという国が、クメール・ルージュ(ポル・ポト派)により掌握され、原始共産主義の実現という極端な国家運営を推し進めた、ということは事実。

しかしクメール・ルージュは、ある時ぽん、とカンボジアに現れ、国を乗っ取ったのではありません。
彼らが存在するには理由、因果があったのです。

高齢者福祉に関わっている私達もまた、理解しがたい状況に陥っている方に遭遇します。
それは本当に唐突で……どうしようもなくて……。

事例をもとに検討してみましょう。

姪の見守りの元で暮らすAさん。
・ケアマネ・Bさんが勤める事務所に、担当交代の依頼が舞い込む。現ケアマネが担当継続することができなくなり、新しいケアマネを探している、とのこと。
・利用者さんはAさんという独身の高齢男性。ヘルパーさんの訪問を週に二回利用して生活自体はおおむね安定。
・キーパーソンは姪・Cさん。CさんはAさんとは別居しているものの、支援に対して熱心であり、Bさんへの要求も高い。
・そして、Cさんの言動には統合失調症を思わせるものも多々ある(Aさんは悪の組織に狙われている、盗聴されているetc…)。
・Cさんには夫や子供もいるようではあるが連絡先は誰も知らず、またCさんも自身への家族への連絡は断固拒否。
・AさんもCさんの不可解な言動や要求に困惑しているものの、「Cがわしの世話をしてくれている」と思いからCさんに異を唱えることはできない。
・ある時、CさんよりBさんに電話が入る。「今のヘルパーは泥棒の手先でありAさんの家の物を盗んでいる。今すぐ交代しろ!」という内容。
・Bさんが確認するもそういう事実はなく、Aさんもヘルパーの交代は希望していない。
・しかしながらCさんの意思はあくまで強固。Cさんの言動はAさんの生活にも支障をきたすことになり……。

支援者にとってご家族という存在は本当にありがたい救世主のようなものでもあり、また同時にこのような悩みの種であることもあります。

誰が見たって本当に支援、治療すべきなのはCさんであることは明白。ただ、BさんはAさんのケアマネであり、Cさんのことには手出しができない、しずらい、という構造となっています。

Cさんの(おそらく)統合失調症という表記の症状がAさんの生活に悪影響を及ぼしている、という事態は、もはやBさんのみでの対応では打開できません

自治体の障害の窓口、相談支援事業所(障害をお持ちの方の相談窓口)、アウトリーチをしてくれる精神科クリニックetc…地域にある精神疾患に関わる多くの専門職と協議して対応すべきケースです。

こういう、対応困難なケースに悩む支援者は多くいます。どこか、誰か、近い誰かにまずは相談をすることが重要な第一歩だと思います。

案外、うまくいくものです、こういうケース。

映画・最初に父が殺された のイメージ図。
そのまなざしは、無垢。Image by 夕璃

ケアマネ・夕璃の思ったこと
・たとえ一人暮らしでも、誰かと繋がっている。
・人と人とは影響し合う。
・病気という歪みは、伝播する、かも。

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最初に父が殺された をケアマネが観る:ルオン一家が見舞われた悲劇の正体

あらすじでも示したように、ルオン一家の生活はクメール・ルージュによって一変させられます。

クメール・ルージュが目指したのは、原始共産主義

お金、私有財産、そして知識すら否定し、人々が等しく農業に従事する社会=貧富のない平等な理想社会、とする考え方です。

いわば、貧富の差の根源的な解消のため、社会を原始時代に引き戻す、ということ。

1975年といえば、アメリカとソ連の宇宙船、アポロとソユーズがドッキングするような時代。
そんな時代に国ごと原始時代に戻ろう、という彼らの狂気……。

しかし、忘れてならないのは、クメール・ルージュはある時、空から降ってきたものではないということ。
クメール・ルージュは、カンボジアの中から生まれたのです。

どうしてクメール・ルージュは生まれ、カンボジアという国に惨劇をもたらしたのでしょうか。
私なりに整理してみたいと思います。

①親米政権の樹立とベトナム戦争
第二次大戦後、カンボジアは国王の元で独立を勝ち取った。
1955年に始まった隣国・ベトナムでのベトナム戦争(アメリカとソ連の代理戦争)に対しては、中立という立場をとり戦禍を逃れていた。
そんな中、アメリカは敵軍がカンボジアのジャングルを補給線にしていることを知り、カンボジア軍を支援して国王を追放、親米政権を樹立する。

②アメリカによるカンボジアのジャングルへの空襲
親米政権樹立後、アメリカは敵の補給路を断つべく、カンボジアのジャングルに空爆を開始。
ジャングルにあった農村、そこに住んでいた住民が戦禍にさらされる。
その空爆の規模は非常に大きく、何十万人の被害者が発生。

③ポル・ポト(クメール・ルージュ)の台頭
農民たちの怒りに目を付けたのは、ポル・ポトという人物。
彼は農村で生まれ育ち、フランスに留学。共産主義に触れ帰国、共産主義者として活動していた。
ポル・ポトはアメリカ打倒を叫び、多くの農民の支持を集める。

④ベトナム戦争の終結とポル・ポトの実権掌握
ベトナム戦争が実質的にアメリカの敗北で終わり、アメリカはベトナムから撤退。
後ろ盾を失った親米政権は一気に弱体化、そんな中、クメール・ルージュが首都・プノンペンを占領(ここが映画の冒頭)。

「これで戦争が終わる、アメリカから解放されてカンボジア人による政治が始まる」、そう、民衆は歓喜したかもしれません。

確かに戦争は終わり、政権はカンボジアの人々の手に戻ったのは確かでしょう。
ただ、クメール・ルージュが実行した政策が人民にもたらしたものは……知識人の大量虐殺も含めて、惨劇でした。

クメール・ルージュは、そもそもベトナム戦争が、それによるアメリカの空爆が無ければ生まれなかったかもしれません。

国と国の衝突という一般の人々にはどうすることのできない歪みが、別の国をも巻き込む因果の引き金となった……。

今作は、そういった時代背景を踏まえると、また違った見え方にもなる作品です。

国という大きな力の前で翻弄される人々、その悲劇を描いた作品は他にも。
あわせてどうぞ。

【まとめ】ちっぽけな私達にできること

今作は、武器を持った集団の前に人々の暮らしがいとも簡単に変容し、いつしかその集団に飲み込まれてしまいかねないという、人間の恐ろしさを描いた作品だと思います。

そして、少し俯瞰してみると、大国の思惑の中で翻弄される国、その民衆、という視点でも考えるべきことを見出させる作品でもあります。

つくづく、私達は無力だなぁ……と思ったりもします。銃を向けられれば、たとえ相手が子供であってもその指示に従わざるを得ません。

そんな弱い私達が社会の安寧のためにできることは、隣にいる人々、同じ立場にいる人達に優しさを伝える、伝えあうことくらいではないでしょうか。

その優しさがやがて大きな力になれば……そう願うばかりです。

最初に父が殺された、こんな人におすすめ!
・先鋭化した集団の狂気を見てみたい方。
・歴史に翻弄される人々を見てみたい方。
・作品をもとに歴史を俯瞰する、という体験をしてみたい方。

夕璃
夕璃

本作は、日本ではあまり知られていません。そして、映画としてよくできているか、と言われればいろんな意見がある映画ではあります。
ただ、人類の歴史の暗部をありありと知ることができる作品でもあります。
関心があれば是非一度、見てみて欲しい作品です。

最初に父が殺された の原作本をお手元に置いておきたい方へ

価値観を分かち合える職場で働きたい方へ

この記事を書いた人
夕璃:介護支援専門員(歴10年以上)
居宅介護支援事業所の管理者として勤務。社会福祉士、精神保健福祉士の資格保有。
小説家になりたくて、某新人賞で二次選考突破。今も挑戦中。
ケアマネとして、福祉、ケア、支援etc…といった視点でドラマ・映画等をレビューしています。
▼ 詳しいプロフィールは以下。▼

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