
『誰かあの二人を救ってあげられなかったのか……』
この映画がすごい、みたいな声がちらほら聞こえる今作、噂に違わぬ内容でした……。
障害のある兄、そして自閉症の妹……成人しているとはいえ、誰の目に映っても違和感があったはずの二人がどうしてこんな事態に至ったのか……。
忙殺される社会に取り残された高齢者の事例を通して検討します。
岬の兄妹 のあらすじ(物語の概要)
うらびれた海沿いの街、賃貸の一軒家に良夫と真理子が暮らしている。良夫は足に障害があり、真理子は自閉症。二人の暮らしは良夫の収入だけが頼り。
しかし良夫はリストラされてしまう。わずかな内職で挽回を図るも家賃、ひいては電気代も滞納してしまう二人。
そんな時、良夫はある夜のことを思い出す。不意に姿を消した真理子、彼女を保護していたのは見知らぬ男、その夜、真理子の下着に妙な付着物があったこと……。
良夫はあることを思いつく。それは、家賃、電気、そして食事のためには必要な選択で……。
情報解禁!!
— 映画『岬の兄妹』公式 (@misakinokyoudai) March 11, 2019
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岬の兄妹 をケアマネ視点で視る:どうして兄・妹は見過ごされたのか
あらすじからも伝わるように、なっかなかの作品……。
良夫はただ、ただ二人の生活を継続することに必死で、何とかその術を確立していこうとします。
作品に呑まれていると(後述しますが今作はリアリティがすさまじく、その雰囲気に取り込まれてしまう感があります)、良夫の必死ぶりに共感してしまうのですが、ふと、疑問に思うことがありました。
どうして誰も救いの手を差し伸べないんだ?
自閉症の真理子、そして足に障害があるほか、明言はされていないものの若干の知的障害があるように見受けられる良夫……。
良夫には肇君、という友達がいます。どうも幼馴染のようで、肇君は兄妹を見守っている風でもあります。
何より、肇君は現職の警察官……。
もし、もし肇君が真理子の件で役所の障害福祉課、生活の困窮の件で生活保護課に相談して、良夫に役所への訪問を勧めてさえいれば……。
事態は別の展開を迎えていたかもしれません。
周囲が適切な専門職に繋ぐことがいかに大切か、事例を通して考えてみましょう。
周囲の人に見守られて過ごすAさんの場合
・Aさんが暮らすのは、古い街の住宅街。住民の入れ替わりは少ない。
・Aさんは結婚を機に現在の住まいに転居、子育てを終え、夫を見送った後は一人で生活している。
・ある時、近所の方がAさんがごみを出す曜日を間違っていることに気が付く。
・また別の方が、回覧板がAさんで止まることが多いことに気が付く。
・またまた別の方が、立ち話の時にAさんが同じ話を繰り返していることに違和感を抱く。
・そんなご近所の方が顔を合わせた際、Aさんの変化について話題になる。
・誰かが一度、地域包括支援センターに行って相談してみよう、ということになり、包括の方がAさんを訪問。
・サービスの利用見込みはないものの、介護保険の申請に至ることになる。
これは、なんていうか、教科書的な事例と展開です。あまりに理想的。
この事例の理想的なところは……。
①Aさんが複数のご近所との関わりがあった。
②その中の誰かが『高齢者の物忘れ=地域包括支援センター』という構図があった。
③ご近所の方が地域包括支援センターに相談に行く時間的余裕があった。
の三点。
今作をよくよく見てみれば、肇君は警察官(=勤務時間が不安定)、そして結婚・子供ができたばかりで私生活も多忙、と、他者を制度に乗っける余裕がない、という人物として描かれています。
こんなことを言っても仕方ないのですが、社会のみんなに余裕があって、みんながすこーしの福祉に関する情報があれば、いかに多くの見えにくい困難に苛まれる方が救われるのか……と思ったりします。

・悲劇は人知れず進展する。
・誰かが、いち早く気づくことが重要。
・とりあえず、専門職につなぐことが大切。
すぐそこに有り得る悲劇をその目で。
岬の兄妹をケアマネが観る:なぜ、今作はここまで心にくるのか。
これ、結構、心にきます。ほんと、見ていて苦しくなるほど。
特にラストシーン一歩手前、「だめ、やめて!」と叫んでしまうような、そんな衝撃的なシーンがあります。
どうして、このストーリーはここまで私達の心にくるのでしょうか。
物語の設定はかなり特殊です。ティッシュを食べざるを得ないような貧困、それを乗り切るための手段……。
ストーリーが身近、だからリアリティがあるわけではなさそうです。
なのにどうしてこんなに、肌が焼けつくような感覚があるのか……そこには二つの要因があるように感じました。
①二人の暮らしの生々しさ
良夫と真理子の住む古い一軒家、雑多な室内、香り立つような生活感、そして二人の佇まい……なんていうか、ものすごく生々しいんです。すぐそこに二人が立っているような、そんなリアルさがあります。
これはもう、カメラワーク、美術さんが素晴らしい、としか言いようがありません。
②二人が追いつめられる生活苦という状況
失業による貧困……これは基本、どんな人にとってもあり得る状況。
今の仕事が急になくなったら、家庭の事情で退職しなくてはならなくなったら、病気になって仕事ができなくなったら……。
普通に暮らす私達はいつ、どういう不運によって二人のような生活苦に至るかもわからない……。そういう、本質的な危機感、がリアリティの要因になっているように感じます。
総合すると、匂い、肌触りすら感じさせるクオリティで、誰しもが想像できる危機感を描いているから、良夫と真理子のストーリーは私達の心を重く引きずるのだと考えました。
お勧めはできません、でも、多くの人の目に触れてほしい映画です。
正視に堪えない物語、すさまじい悲劇はほかにも……。
ぜひ、触れてほしいストーリーです。


【まとめ】二人が放置されないためには
衝撃的なストーリー、すぐそこにあるのに手が届かない悲劇……。
見ていて、鬱々としてしまう映画です。
色んな意見があるとは思いますが、こんなに制度が整った日本という社会で、どうして良夫と真理子の悲劇にリアリティを感じてしまうのか……。
どうすれば二人は救われたのか、どうして二人があんな状況に追い込まれてしまったのか……。
どうして、二人は社会から放置されたのか。
キーになるのは、ちょっとした気づき、手助け、知識、なんだと思います。
しかし、そういった何気ない小さなものって、本当に豊かな社会じゃないとなかなか身近にならないものな気がします。
ほんと、考えさせられる映画です。
勇気がある方は一度、手を伸ばしてみてほしい作品です。
岬の兄妹、こんな人におすすめ!
・社会問題を提起するような作品が好きな方。
・救いのない物語が好きな方。
・余裕がある社会について考えたい方。

重たい映画です。そして、不快な映画でもあります。ただ、社会に生きる私達にとって、決して他人事ではない物語でもあります。
がっつり悲劇と向かい合う覚悟がある方、ぜひお勧めです。
岬の兄妹 を今すぐ見たい方へ。
なお、岬の兄妹 は【沈んでしまいたい時】現役ケアマネ推薦 映画3選 というまとめ・特集記事でも取り上げています。
他のおすすめ作品もぜひ、のぞいてみてください。
ちゃんと生活を支えられる職場がいい方へ

夕璃:介護支援専門員(歴10年以上)
居宅介護支援事業所の管理者として勤務。社会福祉士、精神保健福祉士の資格保有。
小説家になりたくて、某新人賞で二次選考突破。今も挑戦中。
ケアマネとして、福祉、ケア、支援etc…といった視点でドラマ・映画等をレビューしています。
▼ 詳しいプロフィールは以下。▼




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