HANA-BI×ターミナルケア:清く正しく死ぬか、破滅的で美しい死か

夕璃
夕璃

『安全な死』は、一体誰のためのもの?
『自分らしく生きる』って、どういうこと?
正しく安楽なターミナルケアと酒とラーメンに溺れるような死……二つの対照的な事例を通して、生きること、そして死ぬことについて、今一度考えます。
今作における暴力の意味ついての考察も。

【映画】HANA-BI 物語の概要(あらすじ)

刑事の西には、余命いくばくもない妻がいる。幼い娘を失っていた夫婦に降りかかる更なる悲しみ……そんな西が追っていたのは拳銃殺人の凶悪犯。

西は長年のバディを下半身不随にした、そして部下を殺した犯人の頭に向けて発砲、射殺した後、弾倉が空になるまでその頭に弾丸を撃ち込んでしまう。

その後、警察を退職。

退職後、西はヤクザから多額の借金を繰り返すようになる。返済が滞り始めた西は、銀行強盗の後、妻を連れて旅に出る。

それはもう帰ることのない旅……。

1.HANA-BI をケアマネ視点で視る:望ましい死、望む死

初期の北野映画らしく淡々とした、物静かな雰囲気の中で、メインストーリーとして描かれるのは西とその妻の旅です。

死を待つ妻を連れた旅は西の逃避行でもあって、まるで破滅に向かうかのような日々、それでもその日々は夫婦にとってかけがえのない最後の日々で……。

これ、人がいかに死ぬか、死ぬべきか、死にたいのか、を考えるのにとってもいい題材です。

ターミナルケアについて、ちょっと事例を交えて考えてみましょう。

Aさんの場合
・Aさんは肺癌末期の80代女性。公務員として勤務してきた。
・病院からの在宅復帰にあたり、訪問診療、訪問看護、ケアマネで綿密な支援計画を策定。
・ご家族の分担も決められ、不安感もありつつ予定通り在宅復帰される。
・痛みは緩和ケアによりコントロールされ、不安な出来事があった際は訪問看護が手厚くサポート。
・やがて病状が進み、医師が状況を見て家族の集合を打診、子供、孫に見守られつつ息を引き取った。

これ、専門職としては100点満点の支援ですね。
安全で、清潔で、リスクも最小限。
最後の瞬間も家族の中で……と、まるで研修の事例のようです。

Bさんの場合
・Bさんは肝硬変末期の70代男性。街のラーメン屋さんとしてお店を守ってきた。
・ご家族はみんな多忙であり、十分な支援ができないためホスピスへの転院を希望していたが、ご本人は「一人で死んでもいいから家に帰る」の一点張り。
・訪問診療、訪問看護などの計画を組んで退院したものの、一人の時間が長く、転倒、体調不良などの事故が頻発。
・またご本人はもとよりラーメンとお酒が好き。厳禁とされていた二つを人目に隠れて楽しむ毎日。
・腹水が多量になっている最中、大量の吐血の後に意識不明になっているところを訪看が発見、病院に搬送されるが意識を取り戻すことなく……。

Aさんも、Bさんも、最後たどり着くのは死、という同じところ。
ただ、その過程が違うだけ。

そりゃ、一般的に言えばAさんのような経過が望ましいでしょう。
ただ、Bさんが望んだのはきっと、最後まで自分らしく生きること。

死に方を選ぶことは、生き方を選ぶことでもある……。

あなたは、どう生きますか??

映画・HANA-BI のイメージ図。枯れた花と、水。
西の妻が水を注いでいた、枯れかけた花。Image by 夕璃

ケアマネ・夕璃の思ったこと
・生き方は人それぞれ。
・だから、死に方も人それぞれ。
・最後ぐらい、わがままになってもいい、んじゃないかな?

配信がない……なので、宅配レンタルが最も確実な視聴手段。
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2.HANA-BI をケアマネが観る:西の暴力から見えるもの

今作も例に漏れず、突発的で激しい暴力頻発します。

それはある種のコメディのようでもあり、また場面転換の仕掛けのようでもあって……。

その中で、私が気になったのは物語の進行上あまり意味のない暴力シーン。

それは物語の終盤。
西の妻が、枯れかかった花に水をあげるシーン。
湖のほとり、花を挿した瓶に水を入れる彼女。

それを通りがかりの中年男性が小馬鹿にします。

「そんなもんに水やってどうすんだよ。もう枯れてるじゃねぇか。あのな、死んだ花に水やってもしょうがねぇんだよ

そう笑う男性に対し、西は一切の躊躇なく、激しい暴力を振るいます。
まさしくボコボコ……。

西は、激しい怒りに駆られた際、過剰な暴力性を見せます。

妻を小馬鹿にした男性に。
そして、バディと部下を撃った殺人犯に。

西にとって妻の尊厳はそれほどに大切なものであった、と示すシーンに思えました。

その後、二人の逃避行は終着地にたどり着くのです……。

北野監督の名作、同じくターミナルケアを描いた作品……あわせてどうぞ。

3.【まとめ】ずるい、ずる過ぎる結末

今作のエンディングはあまりに有名

西の妻は幼い子供を亡くしたショックにより、作中では全く喋りません
表情はとても豊かですし笑ったりもするのですが、喋らない。

ただ一つ、ラストシーンを除いては……。

西の妻が不治の病であること、西と妻の旅が逃避行であること、そしてあの最後のセリフ……。

泣かない人間って、いるんですかね?? レベルです。

西と妻を見ていると、つくづく、どう死ぬか、はどう生きるか、と密接につながっていると思わされます。

回避不能な感動に包まれつつ、自らの人生について再考させられる今作……名作中の名作。間違いなし。

HANA-BI、こんな人におすすめ!
・めっちゃ感動したい方。
・暴力描写に耐性がある方。
・あれこれ考えながら映画を見たい方。

夕璃
夕璃

第54回ヴェネツィア国際映画祭・金獅子賞受賞は伊達ではありません。万人受けはしないかもですが、約束された神作、ぜひ!

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この記事を書いた人
夕璃:介護支援専門員(歴10年以上)
居宅介護支援事業所の管理者として勤務。社会福祉士、精神保健福祉士の資格保有。
小説家になりたくて、某新人賞で二次選考突破。今も挑戦中。
ケアマネとして、福祉、ケア、支援etc…といった視点でドラマ・映画等をレビューしています。
▼ 詳しいプロフィールは以下。▼

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